R salon柏木 の Enjoydays

Life is Music! & Smile!

小説 『ROSSON's Bar』 第7話 作 柏木秀彦

2009.11.23

category : 小説

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ROSSONにはマスターの他にもう一人スタッフがいる。

シュンペイちゃんだ。

年はマスターより2つ下で、大学時代の後輩らしい。

端正な顔立ちとスラッと伸びた手足が特徴で、お酒が強く、話がとてもおもしろい。

そんな完璧と思える彼を目当てに来る女性のお客さんはわんさかいるんだけど、残念な事に実はシュンペイちゃん、バリバリのオネエなんだ。

そして胸毛が無駄に濃い・・・

 「ちょっとロッソン、あんた最近顔見ないけど、あたしの事嫌いになったんじゃないの?」

 「まさかそんな。 最近仕事が忙しくてさ」

こんなやり取りをしていると、一瞬キャバクラにでも来ているんじゃないかと錯覚してしまう時がある。

でも僕の目の前にいるのは、胸毛の濃い男だ。

彼の面白い伝説は沢山あるんだけど、それはまたいつか話す事にしよう・・・

その日僕は、二週間ぶりにロッソンへ行った。

 「おおロッソン、おつかれさん。 久しぶりだなぁ、今夜の気分は?」

 「今夜はマスターのオススメにしようかな」

 「そうだなぁ、じゃあキューバリバーなんてどうだ?」

キューバリバー・・・

これはラム、ライム、そしてコークを合わせて作られたカクテルで、キューバーがスペインから独立した時にキューバリブレ(キューバの勝利)の合言葉で広まった酒が訛って今の名前になったとマスターが教えてくれた。

そんな酒にまつわるウンチクを聞くのもまた楽しい。

 「そうだロッソン、今夜は紹介したいヤツがいるんだ。 お〜い」

すると店の奥から一人の黒人青年が現れた。

 「ハジメマシテ ボボン デス。 トシ ハ 18サイ デス」

マスターの話によると、彼はボボボバン王国という国の王子様で、語学留学と技術勉強を兼ねて3か月程前から日本へやってきているらしい。

わずか1分で全てキレイに無くなるという最新式の脱毛手術に失敗し、しばらく静養が必要になったシュンペイちゃんに代わって、短い間だけ彼を雇う事にしたそうだ。

どうでもいい胸毛にそこまで執念を燃やすシュンペイちゃんには驚かされたけど、それよりも凄いのはボボンだ。

片言ながらも、短期間で既に日本語を使いこなしているのには正直ビックリさせられる。

「なんでまた日本なんて遠い国に来たんだい?」

「ボボボバンオウコク ハ トテモ オクレテイル クニ ナンデス。 ダカラ ニホン デ イロンナ ギジュツ ヲ  マナブ タメニ キマシタ」

「だったら別に王子さまじゃなくてもいいんじゃないのかい?」

「ボボボバンオウコク ハ トテモ マズシイ クニ ナノデ ガッコウ ガ アリマセン。 ダカラ ワタシ イガイ ノ ワカモノ ハ ヨミカキ スラ デキナイ ノ デス。 ダカラ ワタシ ガ エラバレ マシタ」

僕はそれを聞いて言葉を失った。

仕事が辛いだなんだって弱音を吐くヤツが多い世の中で、彼はわずか18歳という若さで一つの国を背負っている。

貧困にあえぐボボボバン王国にあって、彼は希望の光なんだ。

僕はその日、お釣りの300円をボボンに渡した。

たった300円ぐらいじゃなんの足しにもならないけど、朝飯代くらいにはなるだろう。

今の僕に出来る、精一杯の援助だった。

それでも少しは彼の助けになると思ったら、それだけで嬉しかったんだ。

それからしばらくしてROSSONへ行くと、彼の腕にはスイス製の高級時計が巻かれていた。

きっと何処かの悪いヤツが純粋なボボンに偽者を買わせたんだろう。

僕はそいつらの事が許せなかった・・・

 「ボボン、これは今後の君の為に言っておきたいんだけど、そんな時計を売るヤツの事を信用しちゃダメだ。 で、そのニセモノは何処で売られてるんだい?」

 「コレハ コノ チカク ノ ヒャッカテン ト イウ トコロ デ カイ マシタ」

 「えっ? 百貨店?」

どうやら彼の時計は本物のようだ。

貧しいはずの彼が何故こんな高級時計を買えたんだろう・・・

 「君の収入はいくらなんだ?」

 「ココデノ キュウリョウ ガ ツキ 5マンエン デス」

 「それだけ?」

 「ハイ ソレト ボボボバンオウコク カラ マイツキ 10ボボボバンドル ノ シオクリ ヲ モラッテ イマス」

 「10ボボボバンドル? それって日本円でいくらぐらいなんだ?」

 「ハイ タシカ 600マンエン クライデス」

 「・・・」

後で知った事なんだが、ボボボ゙バン王国は小さいながらも国土の三分の一がダイヤモンド鉱山だった。

それを世界中に売り飛ばして得る収入は、日本円に換算すると数えきれない程の金額になるらしい。

国民全体の数から計算すると、ボボボバンって国はとんでもない金持ち王国という事になる。

ただ残念な事に、ボボボバン王国は文明の発達が異常に遅れていた為に、大金も宝の山になってしまっているという訳だ。

ボボンは真面目でいいヤツだし、将来国を治める人物としては適任だろう。

実際今も王国発展の為に遠い日本で一人頑張っている姿には、涙が溢れそうになる。

でも・・・でもなんか違う気がするんだ・・・

その夜、僕がお釣りの150円をキッチリと返してもらってROSSONを後にしたのは言うまでもない・・・


最終話へつづく・・・

小説 『ROSSON's Bar』 第6話 作 柏木秀彦

2009.11.20

category : 小説

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僕は小さい頃、父によく映画館へ連れて行ってもらった。

そこでポップコーンをつまみ、コカコーラを飲みながら大人に交じって映画を観るのが、当時の僕にとって最高の贅沢だったんだ。

だから大人になった今でも、映画館へ行くと胸がワクワクする。

でも最近はパソコンやDVDを駆使していつでも自宅で映画に触れる事が出来るようになった。

確かに便利だし、自分のペースで観れるって意味でもいい事かもしれない。

でもやっぱり映画は劇場で観るのが一番いいに決まっている。

そんな映画好きばかりがたまに集まって酒を飲みながら映画談議をするのが、僕は大好きだった。

同じ映画でも人によって捉え方が様々なのが面白い。

興味のない人からすれば本当に下らない会話なんだろうけど、僕たちにとっては至福の時間だった。

でもそんなイカした連中の中にも、一人くらいは必ずルールを破るヤツがいる。

彼のあだ名はキンポー。

香港映画スターのサモ ハン キンポーに髪型が似ているところから付いた名だ。

こいつには誰よりも先に映画を観て、誰よりも先にオチを話す悪い癖がある。

浜村淳に何度も苦汁を飲まされた人なら僕の気持ちを理解してもらえるはずだ。

散々映画のストーリーをしゃべった後に「さぁ、続きは映画館で」の名台詞で有名な彼は、僕たちの中で最も危険な人物として語り継がれている。

昔あるオカルト映画のエンドロールに、<この映画の結末は誰にも話さないで下さい>とあったのにも関わらず、キンポーはお構いなしで周りにぶちまけた事があったんだが、おかげでその後観に行った連中は、僕も含めて散々な目に合ったんだ。

それ以来彼は浜村淳に続く危険者リストに登録された。

そこだけ治してくれたら中身はいいヤツなんだけど・・・

今夜はそんなキンポーと二人で酒を飲んでいた。

 「でさぁ、その後に主役のロビンソンの鼻毛が伸びすぎた為にスーザンの乳首が・・・」

 「ストーップ ストップ ストップ、分かったからもうそれ以上言うなっつうの。 てかなんてヒドい内容の映画なんだ。 タイトルはなんて言うのさ」

 「確かTバック大魔王と鼻毛の迷宮とか言ったと思う」

 「・・・俺ならタイトル見ただけで行くの止めるな」

そんなやり取りをしていると、ふと僕の視界に一人の女性が入ってきた。

 「なぁキンポー、カウンターに座ってるあの子、さっきからずっとこっち見てるんだけど、お前知ってるか?」

 「何処に座ってるって? ロッソンおめえ飲み過ぎじゃねぇのか?」

でも確かに彼女はそこに座っているし、僕の方を見て微笑んでいる。

飲み過ぎなのはキンポーの方だ・・・

しばらくして泥酔状態のキンポーが千鳥足で帰ろうとしたんだが、出口の所でバタやんが彼に捉まってしまった。

おそらくバタやんもなんとか大魔王の話を一から聞かされるんだろう。

お気の毒な話だ。

そして一人になった僕は彼女が気になって話しかけてみる事にした。

 「こんばんは、はじまして」

 「こんばんは、でも初めてじゃないよ。 六郎ちゃん」

 「えっ? なんで俺の名前を知ってるんだい?」

 「まだ、わかんないの? あたしだよ。 夕子の顔忘れたの?」

 「夕子? ・・・もしかしてユッコか? あのおてんば娘の」

彼女は僕の実家の隣に住んでいた幼なじみのユッコだった。

とは言っても歳は一回り近く離れていたんでほとんど覚えていないんだけど、僕が中学ぐらいの頃まではよく遊んであげてた記憶がある。

すっかり大人になってしまった彼女は見違える程キレイな女性になっていたんだけど、目元には薄っすらと昔の面影が残っていた。

 「いつ東京に来たのさ。 おばちゃんたちは元気かい?」

それから僕たちは地元の話で盛り上がった。

近所の八百屋の息子は相変わらず鼻を垂らしてシャツの裾をだらしなく出しているし、夕方のチャイムは今でも鳴っているそうだ。

今も変わらない田舎の話は、僕をノスタルジックな気分にされてくれた。

 「あたし今だから言うんだけど、昔から六郎ちゃんの事が好きだったんだよ」

 「ええっ? それ本当かい?」

突然の告白に僕は一瞬驚いた。

もう少し歳が近ければ、こっちから告白したくなるくらい彼女は美しかったが、でもどんなにキレイになっても、僕にとってユッコはあの頃の小さくて可愛いユッコのままだ。

それからも懐かしい昔話は続いた。

 「そろそろ行かなくちゃ、あたし六郎ちゃんに会えて嬉しかったよ」

僕は引き留めたい気持ちだったが、こればかりはしょうがない。

そして彼女は店を出て行った。

その時、突然僕の携帯が鳴りだしたんだ。

実家のおふくろからだった・・・

 「もしもし、六郎? 実は今朝、夕子ちゃんが交通事故に遭ったんだけど、さっき搬送先の病院で亡くなったの。 明日お通夜があるからこっちに帰っといで」

それじゃあさっきまで一緒にいたのは・・・

僕はその時、恐ろしさは全く感じなかった。

それよりも先に涙が頬を伝うのが分かったからだ。

人は死ぬ時、この世で一番会いたい人の所へ行くと聞いた事がある。

いつかまた何処かでユッコに会えた時は、最高に笑える話を用意して、腹がよじれる程思いっきり笑わせてやる。

それまで待ってなよ・・・


つづく・・・





 

小説 『ROSSON's Bar』 第5話 作 柏木秀彦

2009.11.17

category : 小説

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つい3か月程前まで、僕にはフランチェスカという名の恋人がいた。

彼女はイタリア生まれのブラジル育ちで、とても陽気な性格をしている。

母国のイタリア語をはじめ、英語、ポルトガル語、そして日本語も使いこなす才女だ。

でも、職場の英会話学校では中国語を教え、寝言はギリシャ語を話す不思議な子でもあった。

知り合うきっかけはROSSONで、お互いに一目惚れだった。

僕たちは出会ってすぐ恋に落ちたんだけど、残念な事に長くは続かなかった。

実は彼女、とんでもない性癖の持ち主だったんだ・・・

最初の頃は頑張って色んな要求を受け入れていたんだけど、途中からドンドン注文がエスカレートしていって、最後にはとんでもない事を強要されそうになった為に、身の危険を感じた僕は彼女と別れる決心をした。

本当に辛い決断だったけど、その選択は間違いではなかった。

噂で聞いた話だけど、僕の後に彼女と付き合った男が3日間も入院する大怪我をしたそうなんだ。

今でもたまにあの頃の悪夢にうなされる事がある。

そんなフランチェスカが実家の事情でアフリカへ行く事になったらしい。

いったいどんな事情なんだろう。

そこで彼女の送別会をROSSONで開く事になったんだが、僕は行かなかった。

だってやっぱり一度は愛した女性だし、最後の別れとなると寂しくて泣いてしまうそうだったからだ。

しばらく経ってからROSSONへ行くと、マスターが彼女からの伝言を僕に伝えてきた。

 「彼女、お前に会いたがってたぞ。 ロッソンのなんとか絞めが今でも忘れられないとか言ってたけど、プロレスの技かなんかか?」

 「ああ、その話か、それならもういいよ。 ところで今夜はえらく外国人のお客さんが多いね」
 
 「そうなんだ、実は最近この辺りで立て続けに語学学校か開校したんで、そこの先生達が沢山移ってきたせいもあるんじゃないかな」
 
 「そうなんだ。 そういえば周りでも英会話を習い出す人が増えてきているよ。 俺もそろそろ始めないといけないのかな・・・」

元々ROSSONには外国人のお客さんが多い、アメリカで住んでいた経験のあるマスターは英語が流暢だったんで、きっとそんな所も支持される理由なんだろう。

お客のほとんどのが講師の仕事で来ているから日本語も話せるんだけど、中には全くダメって人もいる。

おそらくかなりレベルの高いクラスを受け持っているんだろう。

子供の頃からお調子者の僕は、そんな人にでも平気で声をかけに行く。

 「 ハイ! ナイストュー ミーチュー 」

 「Nice to meet you.」

 「ウェアー アー ユー カム フローム?」

 「I 'm from Australia.」

 「オ〜ウ リアリー オーストレイリアー。 イッツ ア ベリー ワンダフォー カントリー」

 「Oh Thank you. You are a good man. and ペラペラ? ペラペラペラペラペラペ・・・」

大体この辺りから怪しくなって来る。

 「ペラ〜 ペラペラペラッ ペ〜ラ〜ペ〜ラ〜ペ〜ラ〜・・・」

ここまで来ると全く意味が分からない・・・

それでもなんとかコミュニケーションがとれるんだから、酒の力ってのは本当に凄いと思う。

 「よお〜ロッソン。 調子はどうだい?」

話しかけてきたのは常連仲間のスライだ。

彼はムキムキのマッチョマンで、顔がシルベスター スタローンに似ている為に彼のあだ名からその呼び名が付いた。

 「よおスライ。 今夜もノリノリじゃないか。 そっちこそどうなんだ」

彼はいつも、僕に色んな事を教えてくれる。

でもそのほとんどが筋肉についてだ。

筋トレする時は鍛えたい部位を意識しながらしないとダメだとか、腕を太くしたいなら一度限界以上の負荷をかけて筋肉を一旦壊してから48時間のインターバルを開けてまた鍛えればいいとか他にも色々と・・・

しかも、話に興奮してくると顔がドンドン近づいてくる。

彼にキスされそうになったのは1度や2度じゃない。

あの熱さはホントに凄くて、誰かが笑い話でスライと松岡修造のトーク番組を組んだら視聴率がとれるんじゃないかって言ってたけど、僕なら間違いなくチャンネルを変えるだろう。

 「ロッソン。 実は今日はお別れを言いにきたんだ」

 「えっ? そりゃいったいどういう事なんだ?」

話によると、彼は仕事の関係で名古屋に転勤になったそうだ。

辞令が出た時に一番最初にしたのはジムを探す事だったらしいんだけど、いかにも彼らしいエピソードだ。

しかし僕は、あまりにも突然な報告に戸惑いを隠せなかった。

もうちょっと彼の話を真剣に聞いてあげればよかったって思う。

人の価値は失う時に分かるって言うけど、今まさにそんな気分だ。

でも、もちろん一生の別れって訳じゃない。
 
 「スライ、いつか時間が出来たら、名古屋へ遊びに行くよ」

 「ホントかい? そいつはご機嫌だ。 じゃあ一緒にジムへ行こうぜ。 いい所を見つけたんだ」

その提案は低調に御断りしたんだが、この後も僕は彼の筋肉話に付き合わされるハメになってしまった。

でももちろん、今夜はとことん付き合うつもりさ・・・


つづく・・・

小説 『ROSSON's Bar』 第4話 作 柏木秀彦

2009.11.14

category : 小説

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私の名前は青山春夫といいます。

そうです、この物語の主人公、ロッソンが通うバーのマスターです。

常連のみなさんからはパッツンと呼ばれているんですが、何故この呼び名になったのか、定かではありません。

おそらく名前の春夫からきているんでしょう。

趣味は色んなお店のランチに行って、撮った写真をミクシィブログに載せることです・・・

ROSSONは、大きな街の小さな路地裏にあるんですが、おかげ様でオープンしてからもう十数年が経ちました。

これまでには本当に沢山のお客さんが来られたんですが、一つ不思議な事があります。

もう、十年来のお客さんなのに、未だに名前を知らない方がいるかと思えば、出会ってたった1年しか経っていないのに昔からの友達のような方もいます。

例えば、ロッソンのように・・・

私と彼は年が近い事もあり仲良くさせてもらっているんですが、ヤツは本当にいい男です。

たまにキザな事を言う時もありますが、どうかみなさん大目に見てやって下さい。

おっと失礼、噂話をしているうちに彼がやってきました。

今夜のロッソンはとても嬉しそうな顔をしています。

どうやら、特別なゲストを連れて来たようですよ・・・

カランカランッ

 「どうも」

 「おおロッソン、おつかれさん。 今夜の気分は?」

  「そうだなぁ、 まずはビールを2つ頼むよ」

僕が連れてきたのは親友のセイジロウだ。

彼は中学からの友人で、学生の頃まではしょっちゅう遊んでたんだけど、就職と同時に仕事の都合で遠い所へ行ってしまった。

そして向こうで結婚して子供も生まれ、今じゃ立派なお父さんだ。

それからはほとんど会う事も無くなってしまい、たまに電話で話をするぐらいの付き合いになってしまった。

今回は久しぶりの出張で本社がある東京へ出てきたついでに、僕の所へ会いに来てくれたんだ。

本来ならビジネスホテルで一泊なんだけど、今夜は僕の部屋に泊まる事になっている。

彼とは若い頃に何度か旅行をした事があるんだけど、男二人で旅をしたのはこいつとだけだ。

色んな場所に行ったけど、中でもハワイに行った時が一番楽しかった。

泊まったのは安ホテルで、カードキーが難しく開けるのに随分苦労したのを覚えている。

それ以来僕は、カードキーがどうも苦手だ。

現地での観光にはレンタカーを使った。

サンゴ礁がキレイなハナウマビーチや、大きなパイナップル畑にも行った。

途中でスコールが降ってきた時はキレイな虹も見れた。

雄大なオアフの空と風が心地よく、本当に最高の気分だった。

季節がまだ寒い時期だったんで海が少し冷たかったんだけど、ワイキキビーチではかなり目の保養をさせてもらった。

でもあまりの寒さにブラット ピットみたいな顔をしたかっこいいサーファーがガタガタ震えながら海から上がってきた時は、二人で腹を抱えて笑ったのを今でも鮮明に覚えている。

あんなに唇が紫色になった人を見たのは生まれて初めてだったし、この先も出会う事はないだろう。

他にも笑える思い出は沢山あるんだけど、きりがないのでこのくらいにしておこう・・・

とにかく僕にとってセイジロウは、最高の親友なんだ。

でもそんな彼にも、一つだけどうしても治す事のできない欠点がある。

彼のイビキは壮絶で、例えて言うなら地鳴りのような音がする。

まさかイビキが原因で楽しいハワイ旅行の二日目にホームシックになるなんて、夢にも思わなかった。

それ以来彼と同じ部屋で寝る事に、僕は恐怖を感じるようになってしまったんだ。

だから今夜は家に帰るのが恐ろしくてしょうがない。

マスターに事情を説明して、ROSSONに泊めてもらおうかと今真剣に考えている所だ。

冗談はさておき、僕たちは久しぶりの再会を楽しんでいた。

昔の話や仕事の話、ちょっと背伸びをして経済の話まで実に幅広い話題が展開された。

そんな時に常連仲間の本郷部長が僕達の間に割り込んできた。

 「なんだロッソン、今夜はえらく楽しそうじゃないか」

部長というのは愛称で、本当の役職は課長だ。

そんな本郷部長には結婚して10年になる奥さんがいた。

この奥さんがかなりの恐妻らしく、結婚式の3日後には飛び蹴りをくらったそうだ。

会社ではそこそこの地位にいても、家に帰れば平社員という訳だ。

それからも本郷部長の鬼嫁話は続いた。

こんな話を聞くと、結婚に対する夢がどんどん壊されていく。

しかし、セイジロウの反応は僕のそれとは少し違っていた。

おそらく共鳴する部分が沢山あったんだろう。

本郷部長の体験は、きっと彼に大いなる勇気を与えたに違いない。

そしてこの後もセイジロウと部長は盛り上がり、結局僕たちはROSSONで夜を明かしてしまった。

部長との出会いに感謝して彼は帰っていったんだけど、あのイビキを聞かずに済んだって意味で本当に感謝するのは僕の方だろう。

次にまたセイジロウが来た時は、部長に連絡する事を硬く心に誓って、僕も家路へと向かったんだ・・・


つづく

小説 『ROSSON's Bar』 第3話 作 柏木秀彦

2009.11.11

category : 小説

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僕が普段、通勤や買い物の足に使っているのは自転車だ。

ホントは車が欲しいんだけど、維持費が高くて一人暮らしの僕には大変だし、なにより都会では逆に不便だったりする。

その証拠に、街を走れば至るところで自転車を目にする事が多い。

マウンテンバイクにロードレーサー、最近はクロスバイクなんてのもあるらしい。

みんなそれぞれ自分好みの仕様にパーツを組み替えたりして、今や自転車もファッションの一部になってきた。

しかも最近は自転車の事をバイクと呼ぶそうだ。

だから僕も27段変則のバイクに股がって・・・

なんて事を言ってみたいけど、実は僕の愛車はママチャリなんだ。

バイクより自転車って呼び名の方が断然似合っている。

しかもハンドルは今時めずらしいカマキリタイプだ。

何年か前はジャイアントってメーカーのマウンテンバイクに乗ってたんだけど、買い物に行った先で盗まれてしまった。

で、それを知った常連のご夫婦が奥さんの乗り換えを機に譲ってくれたんだ。

初め自転車をあげるって言われた時は、ピカピカのロードレーサーを想像して飛び跳ねて喜んでたんだけど、正直ガッカリした・・・

でもこいつは、雨の日だって風の日だって、僕を何処へでも運んでくれる愛すべき相棒なんだ。

そんな意味では今や、少なくとも僕にとってなくてはならない、この世で一番ホットでクールなバイクになった・・・

今、季節は秋。

真っ赤に染まった街路樹を眺めながら走っていると、自転車通勤の良さを改めて痛感してしまう。

今日はどんな一日になるんだろうか・・・


僕の同僚にバタやんという男がいる。

彼はあだ名の通りいつも店の中をバタバタと走り回っているんだが、とにかくオッチョコチョイでいつもボスに怒鳴られていた。

でも性格が明るいのが取り柄で、いつもニコニコしているからみんなの人気者なんだ。

今夜はそんなバタやんからのお誘いをうけてROSSONへ行く事になった。

ちなみにバタやんは自宅通いという事もあり、僕よりはいくらか裕福なのでピカピカのバイクに乗っている。

こうゆう自転車って少し前かがみになるんだけど、おっきなおしりのバタやんが乗ると更にプリプリ度が増すから面白い。

おしりフェチの僕から見てもオススメできる、堂々立派なプリケツだ・・・

今夜は常連仲間のユミタンが来ていた。

彼女は色白でショートヘアーが似合う素敵な女の子だ。

そんなユミタンは意外にもアニメが好きらしく、その話になると熱いトークが始まるんだが、僕は彼女のマニアックな話を聞くのが楽しくてしょうがない。

好きか嫌いかと聞かれたら、もちろん即答で大好きな人だと答えるだろう。

そんなユミタンを交えてしばらく3人で話をしている時だった。

ほろ酔いになってきたバタやんが急にモジモジし始めたんだ。

理由を聞いてみると、もうすぐ意中の女の子が店に来るって言うじゃないか。

どういう事か尋ねてみると、うちの店の近くにある公園に最近来る、移動式のコロッケ屋でバイトしている女の子と仲良くなったらしい。

そういえばこの頃、休憩時間によく店の外へ出て行く姿を見かけたが、そういう事だったのか。

そして今夜彼女と、この店で待ち合わせをしているというんだが、告白するのに一人では不安だという事で僕を誘ったらしい。

 「バタやん、悪いけどそれには協力できないな。 告白するなら自分一人でしなきゃ」

 「あたしもそう思うよ。 あなた男なんでしょ。 しっかりしなさいよ」

僕たちはバタやんに必死で発破をかけていた。

そんな矢先に彼女が店に入ってきたんだ。

年は随分と若そうだから、まだ学生なんだろう。

黒いロングヘアーとメガネが真面目そうな彼女のイメージに合っている。

するとすぐさまバタやんは椅子から立ち上がって僕たちから少し離れたカウンターへ彼女をエスコートしていた。

ここまではまずまずだ。

さあ、頑張れバタやん・・・

そしてすかさずマスターがBGMを変えた。

かかってきたのはムードタップリのスローバラードだ。

彼の頭の中にはおそらく世界中のありとあらゆる音楽が詰め込まれているんだろう。

でも、たまにおかしなセレクトをする時もある。

いつか随分前に、僕が女性と二人っきりでいい雰囲気になっていた時、突然崖の上のポニョのテーマソングをかけやがったんだ。

おかげで結果は散々だった。

今でもあの時の事は根に持っているんだが、もちろん半分は笑い話さ。

少し話がそれるんだけど、僕はアニメキャラクターの中でアラレちゃんが一番強いと思っている。

何故ってゲンコツで地球を真っ二つにしてしまうんだから。

そんな話でユミタンと盛り上がっていたんだけど、やっぱり話題はあの二人の方に戻ってしまう。

そして途中からバタやんが彼女をモノに出来るかどうかっていう不謹慎な賭けになってきて、負けた方が一杯おごる事になった。

しかしこの後事態は急変する。

バタやんがなにか気分を損ねる事を言ったのだろうか、不機嫌な顔になった彼女が突然席を立って店を出て行ってしまったんだ。

それを見たマスターがすかさずBGMをユア ビューティフルに変えたのは面白かったんだけど、バタやんに笑顔は一切なかった。

 「なにがあったかは知らないけど、とにかくおつかれさん。 こっちで飲みなおそうぜ」
 
 「さっきのバタやんかっこよかったわよ」

そして僕たちは二人でバタやんを間に挟んで、そっと肩に手をまわした。

ヒューマンジュークボックスのマスターが今の空気を読んで、また曲を変えている。

かかってきたのは、ビル エバンスだ。

彼は比類なき才能を持ったジャズピアニストで、有名な黒人ジャズトランペッター、マイルス デイビスをして天才と言わしめた男だ。

マスターがバタやんの為に注いだ琥珀色のウィスキーが氷と混ざり合い、グラスの中で美しい陽炎を描いている。

そしてビル エバンスが奏でる美しい旋律が、ROSSONの夜を優しく包みこんでいた・・・


つづく
ジャケ買い
ジャケ買い
プロフィール

柏木 秀彦

Author:柏木 秀彦
大阪で生まれ育ったのに通天閣に登った事がありません。

誕生日・・・
11月7日

血液型・・・
B型

性格・・・ 
おのぼりさんな所が長所であり短所でもあります。

趣味・・・
□ サーフィン
□ ブログ

好きなもの・・・
□お酒
□音楽
□映画

ストレス発散法・・・
□ ジョギングで汗を流す。
□ 車の中でお気に入りのCDを聴きながら声を張り上げてハモる。

職場・・・
□R salon
http://www14.plala.or.jp/R-salon/

日記中たまに下ネタを挟む事がありますが、悪気はないので笑って流して下さいm(__;)m

小さな天気予報

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